フェイスマスク事件裁判・判決編

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2020年8月16日に神戸市で開催された同人誌即売会「神戸かわさき造船これくしょん7」で発生した「フェイスマスク事件裁判」について、2023年1月26日に下された判決およびその内容を解説するページ。

  • 事件そのものの概要についてはこちらのページを参照してください。
フェイスマスク事件
  • 裁判の時系列や推移に関してはこちらのページを参照してください。
「神戸かわさき事変」(フェイスマスク事件裁判)

はじめに

2020年8月16日に開催された「神戸かわさき造船これくしょん7」で発生した「フェイスマスク事件」を発端とし、2021年9月頃から始まった裁判を通じて2年半の歳月がかかった本件であるが、2023年1月26日の判決をもってついに決着となった。

C2機関および田中謙介が起こした名誉毀損&肖像権侵害を理由とする初めての民事裁判ということで、艦これ界隈のみならず各方面で話題となった裁判だが、愚痴スレ的には被告(KOK)側の敗訴が濃厚であるとの見方[1]が支配的であり、その上で原告側(C2機関&田中謙介)の請求がどれだけ通るかが注目の的となった。

判決

https://twitter.com/sollamame/status/1640305421754966016

そらまめ@sollamame
「艦これ」同人誌頒布行為について、ゲーム開発運営会社や同社代表者らに対する名誉毀損の成否等が問題となった東京地裁令和5年1月26日判決が公開されています。
https://courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=91953
午後7:51 · 2023年3月27日

正式名称

法曹界では『艦これ性玩具同人誌肖像権侵害事件』という名称になりました。
「著作権が争点ではない」とはっきり名言されています。

https://twitter.com/ootsuka/status/1640483097648173056

行政書士 大塚大@ootsuka
「艦これ」のキャラクターを性玩具に見立てた同人誌を頒布したなどで肖像権、名誉権侵害が認められた事案。艦これ性玩具同人誌肖像権侵害事件 東京地裁令和5.1.26令和3(ワ)11118損害賠償等請求事件(著作権は争点ではありません)
ourts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=91953
午前7:37 · 2023年3月28日

判決文

裁判結果詳細:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=91953

以下は判決文に記載されていた内容の解説となる。解説の際に内容が重複したり前後することには留意されたし。
また解説内の単語の意味は下記の通りである。

被告   = KOK(小岡賢治)
原告A   = 田中謙介
原告会社 = C2機関

請求

訴訟時に原告側から出された賠償請求の内容は以下の通り。

1.被告は、原告Aに対し、660万円及びこれに対する令和2年8月16日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2.被告は、原告会社に対し、440 万円及びこれに対する令和2年8月16日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3.被告は、別紙1「広告の要領」記載の要領をもって、別紙2「広告の内容」記10載の謝罪広告を1回掲載せよ。
4.主文第3項及び第4項と同旨

(全文pdf 2ページ目)

金銭面の1100万円の賠償金に加え、謝罪広告の掲載とフェイスマスクに関わる諸々の事項の対処の3点が被告に請求された。

賠償金1100万円については名誉毀損による損害賠償としては法外(一般的に50~100万円が相場のため)であり、別口で発生した可能性がある経済的損失を加味しても全額が通ることはないだろうという見方が愚痴スレではされていた。また謝罪広告の掲載については、掲載する場所に被告のTwitter垢が指定されていたのだが、裁判の途中で被告の垢が凍結されたためどのような対処がされるのかが注目された。


主文

判決の主文は以下の通り。

1.被告は、原告Aに対し、275万円及びこれに対する令和2年8月16日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2.被告は、原告会社に対し、165万円及びこれに対する令和2年8月16日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3.被告は、別紙3被告表示目録記載のマスクを複製又は頒布してはならない。
4.被告は、前項記載のマスク及びこれを作成するために使用したデータを廃棄せよ。
5.原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6.訴訟費用は、これを5分し、その2を被告の負担とし、その余は原告らの負担とする。
7.この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

(全文pdf 1~2ページ目)

要約すると被告には原告Aに対して275万円、原告会社に対して165万円の計440万円の賠償金を支払うこと、フェイスマスクの頒布と複製の禁止及びそのデータの破棄が言い渡されるという原告側の勝訴判決となった。

賠償額については当初の請求である1100万円と比較すると少額ではあるが、一般的な誹謗中傷裁判における賠償額としては多額と見られる。一方、もう一つの注目点だった「指定する媒体への謝罪広告掲載」については棄却されることになった(理由は後述)。


事案の概要

本裁判の事案の概要については以下の通り(長いので一部省略)。

本件は、育成シミュレーションゲーム「艦隊これくしょん-艦これ-」(以下「本件ゲーム」という。)等を開発・運営する原告会社及びその代表者である原告Aが、①被告が、令和2年8月16日、本件ゲームをテーマにした同人誌即売会 (以下「本件即売会」という。)において、原告Aの顔貌を元に作成したお面(以下「本件マスク」という。)を着用し、本件ゲーム内のキャラクター(以下、個別のキャラクターの如何を問わず「本件キャラクター」と総称する。)を性玩具に見立てた内容等の記載された同人誌(以下「本件同人誌」という。)を頒布したことなどが、原告らの名誉を毀損すると共に、原告Aのパブリシティ権、肖像権及び名誉感情を侵害し、また、②被告が、令和2年5月~8月の間に、短文投稿サービス「ツイッター」において行った本件ゲーム等に関する一連の投稿が、原告らの名誉を毀損すると共に、原告Aの肖像権及び名誉感情を侵害する旨を主張して、被告に対し、以下の請求をする事案である。(後略)

(全文pdf 2~3ページ目)

要約すると、①被告がフェイスマスクを着用して艦これエロ同人誌を頒布した行為が原告Aの肖像権侵害&名誉毀損に当たること、②被告が本人のTwitterで投稿した文章が原告側の名誉毀損および原告Aの肖像権侵害&名誉毀損に当たることを理由として起こした裁判である。

また、裁判の争点となった被告の行為の詳細については下記の通り。

Twitterへの投稿
被告は、令和2年5月~同年8月の間、ツイッターにおいて、別紙4投稿目録記載のとおり、本件ゲーム等に関する投稿を行った(以下、これらの一連のツイートを「本件ツイート」ともいう。)。

(全文pdf 4ページ目)
同人誌の頒布行為
本件同人誌は、被告がサークル名「#艦これはみんな仲良く」により本件即売会に参加するにあたり作成した「犯罪撲滅!!地球の安全!合法レイプ実現『海防艦ラブドール』ならアナタの夢、かなう。」と題する 10頁程度の漫画等をその内容とする。その概略は、海防艦を擬人化させた本件キャラクターを、「海防艦ラブドール」という児童型ラブドール(人型の主に男性向け性玩具の一種)に見立て、当該ドールの使用により性欲を発散させることで性犯罪等の犯罪撲滅に資するといったことを内容とするものである。本件キャラクターに関する描写の具体的内容は、別紙5描写目録記載1のとおりである(以下、これらの描写を「本件キャラクター描写」と総称する。)。
 
また、本件店舗においては、本件キャラクターの衣装を着用した複数の女性をスタッフとして配置し、接客にあたらせているところ、その衣装は、キャバクラその他の風俗店の女性店員のように、極端に肌を露出させた衣装を着用しているわけではなく、スカートの長さも膝丈程度である。また、そこでの接客は、1フロアに20名程度の利用客を入場させ、数名の店員がテーブル越しに接客するスタイルである。店員と利用客は食事を提供するためのテーブルを挟んでおり、利用客から店員の足元は見えづらい構造である。店員が利用客に接近して接客することもない(令和2年春以降は、特に、コロナ禍でもあり、利用客と通常より距離を置いている)。これに対し、本件同人誌末尾の「キャバカレー」と題する4コマ漫画には、別紙5描写目録記載2のとおりの描写がある(以下、これらの描写を「本件店舗描写」と総称する。)。さらに、本件同人誌3頁及び5頁には、それぞれ、原告Aと同定される男性イラスト(以下、前者を「男性イラスト1」、後者を「男性イラスト2」という。)が記載されている。上記各男性イラストに関する描写は、別紙5描写目録記載3のとおりである(以下、これらの描写を「本件男性イラスト描写」と総称する。)。

さらに、本件同人誌10頁のクレジット表記(以下「本件クレジット表記」という。)には、本件同人誌の原作として本件ゲームの名称が表示されているほか、「SPECIAL THANKS」として、原告らの各名称に加え、「TwiFemis」との記載に続いて3つのツイッターアカウントが表示されている。ただし、原告ら及び上記3アカウントの保持者らは、被告による本件同人誌の制作、頒布等に関わっておらず、賛同もしていない(甲146、147)。なお、「TwiFemis」(ツイフェミ)とは、ツイッター上でフェミニズムに関する言動を展開する人々又はその現象を指す俗語・インターネットスラングである。

(全文pdf 4~5ページ目)
フェイスマスクの作成
被告は、原告Aに無断で本件マスクを作成し、本件同人誌に本件マスクの写真を掲載すると共に、本件即売会において、本件マスクを着用しながら本件同人誌を頒布した。

本件マスクは、別紙3被告表示目録記載のとおり、原告Aの顔写真を元に、これをマスクとして着用できるよう、山型に湾曲させて作成したものである(甲4、10)。

本件同人誌8頁には、本件マスクの写真と共に、「本邦初公開!これが【神】のリアルマスクだ―――ッ!」との宣伝文句及び「古来より人は儀式や祭礼に際し、自らに神格を宿すために仮面をまとったという・だとすれば神である(省略)のマスクが作られるのは人間心理の必然的帰結であろう。」との説明文の記載がある。

(全文pdf 5~6ページ目)

Twitterへの投稿については①艦娘の人権等に言及した投稿、②艦娘に関する卑猥な投稿、③被差別部落等について言及した投稿、④カレー機関に関する投稿、⑤原告Aの顔写真に関する投稿、⑥原告Aに関するその他の投稿の6点が挙げられている。各点の要約は以下の通り。

  • 艦娘の人権等に言及した投稿
主に海防艦キャラに対して「艦娘は兵器なので人権はない、したがって海防艦ポルノは児童ポルノではない」といった発言やそれを元にした漫画の投稿を行った。
  • 艦娘に関する卑猥な投稿
艦娘のR-18イラストの投稿を繰り返し行った。
  • 被差別部落等について言及した投稿
海防艦の第四号のあだ名「よつ」をネタとした同人誌「艦これで学ぶ被部落差別」を作成または頒布しようとした。
  • カレー機関に関する投稿
カレー機関を「キャバカレー」と呼び、同人誌やレポ漫画の作成を匂わせた。
  • 原告Aの顔写真に関する投稿
原告Aの顔写真を繰り返し投稿、またフェイスマスクを使用した画像のツイートへのリツイート行為。
  • 原告Aに関するその他の投稿
原告Aをネタとしたツイート(ブロック関係や■■関係など)

同人誌の頒布行為については①同人誌内の本件店舗(カレー機関)の描写が実際の店舗の実情と乖離している点、②同人誌内の男性イラストが原告Aと同定されるほど似通っている点、③同人誌のクレジット表記に、同人誌とは無関係な原告らの名前やTwitterアカウントを記載した点が挙げられている。

フェイスマスクの作成については①原告Aに無断でマスクを作成&同人誌内にマスクの写真を掲載した点、②即売会でマスクを着用しながら同人誌を頒布した点が挙げられている。

別紙3被告表示目録、別紙4投稿目録および別紙5描写目録については判決文の添付文書を各自で参照のこと。

争点

裁判の争点は以下の通り。順に原告ら・被告の主張と裁判所の判断について解説する。

1.本件同人誌の頒布等に関するもの
 ア.本件同人誌の頒布等による原告らの名誉毀損の成否
 イ.本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aのパブリシティ権侵害の成否
 ウ.本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aの肖像権及び名誉感情の侵害の成否
2.本件ツイートによる原告らの名誉毀損の成否
3.本件ツイートによる原告Aの肖像権及び名誉感情の侵害の成否
4.本件マスク及びそのデータ廃棄等の必要性の有無
5.原告らの損害及びその額
6.謝罪広告の必要性の有無

(全文pdf 6ページ目)

本件同人誌の頒布等による原告らの名誉毀損の成否

原告側の主張
本件同人誌の内容等は前提事実(3)[2]のとおりであるところ、被告は、本件クレジット表記に、真実に反し、「SPECIAL THANKS」として原告らの名称を表示すると共に、「原作」欄に本件ゲームの名称を表示することにより、あたかも原告らが本件同人誌の制作等に関与し、本件キャラクターを性玩具として扱い、又はそのように扱うことを許容していること等の事実を摘示した。  また、原告Aについては、本件同人誌の制作等に一切関与していないにもかかわらず、本件同人訴の「おまけ4コマ」と題する部分に掲載された「君のidは」とのタイトルの3コマ漫画(以下「本件3コマ漫画」という。)において、「A監督 最新作」との記載により著作者として表示されている。 このような摘示事実は、原告らが、自身の管理する本件ゲームのコンテンツに愛着も敬意も抱いていないといった印象を与えるものであり、原告らの社会的評価を低下させる。

本件キャラクター描写は、本件キャラクターをメインキャラクターとする本件ゲームのコンテンツに対する著しい中傷である。本件即売会は本件ゲームにテーマを限定した同人誌即売会であるところ、原告会社は、独自に作成したガイドライン(以下「本件ガイドライン」という。)に反しない限りで、このようなファン活動に寛容な態度を取ってきた。このため、本件同人誌が本件即売会で頒布されたことは、本件同人誌の作成、頒布等を原告会社が認容しているとの事実を摘示するものである。しかも、本件同人誌には、本件クレジット表記として原告会社の名称が表示されていることをも踏まえると、本件同人誌の内容は、本件キャラクターの中傷に原告会社も関与していた事実を摘示するものである。このような事実は、原告会社が、自己の管理するコンテンツである本件キャラクターに愛着も敬意も抱いていないという印象を与え、原告会社の社会的評価を低下させる。

本件店舗描写は、原告らが、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)に違反している可能性のある店舗を営んでいるとの事実を摘示するものである。このような事実は原告らの社会的評価を低下させる。

したがって、被告が本件同人誌を頒布した行為は、原告らそれぞれの名誉を毀損する。

(全文pdf 6~8ページ目)
被告側の主張
否認ないし争う。
同人誌という媒体の性質、体裁上、一般読者の通常の読み方に従えば、原告らの主張するような読み方は成立しない。すなわち、本件即売会のような同人イベントでの頒布物の内容を著作権者が承認しているという社会通念は存在しない。また、本件クレジット表記はユーモアであり、これを見て、原告らが本件同人誌に対し「特別の感謝」の意を表するような人物であるという印象を受けることはない。

(全文pdf 8ページ目)

同人誌の頒布行為が名誉毀損に値すると主張する原告側の根拠は以下の通り。

  • 被告は同人誌の制作に一切無関係だった原告らや艦これの名称をクレジットに表記することで、あたかも原告らが関係者であるかのように扮った。被告の行為は同人誌の内容から「原告らは艦これキャラを性玩具とした扱うことを許容している」「原告らが自身が運営するコンテンツに愛着も敬意も抱いていない」といった印象を与えるものであり、原告らの社会的評価を低下させる。
  • 被告が頒布した同人誌内のキャラクター描写は、艦これに対する著しい中傷である。即売会は原告会社のガイドラインに沿った形で運営されており、その即売会で問題の同人誌が頒布されることは、その同人誌の作成・頒布を原告会社が認容していると捉えられかねない。また同人誌に原告会社の名称がクレジット表記されていることは、キャラクターの中傷に原告会社が関与していたという誤解を与えるものである。
  • 同人誌内のカレー機関の描写は、原告らが風営法に違反している可能性がある店舗を営んでいるという誤解を与えるものである。

対して被告側の反論は以下の通り。

  • 常識的な読み方に従えば、名誉毀損に当たるような読み方は成立しない。よって同人誌の(名誉毀損に当たるような)内容を著作権者(C2機関)が容認しているという考えも成立しない。
  • クレジット表記はユーモアの範疇であり、原告らが同人誌の関係者であるという印象を読者が受けることはない。

原告側の主張で注目すべき点は、被告の同人誌の内容が「原告らは艦これキャラを性玩具とした扱うことを許容している」「原告らが自身が運営するコンテンツに愛着も敬意も抱いていない」と言った印象を受けるから名誉毀損に当たる、としている所だろう。前者の主張をそのまま受け取るならば、逆説的に「原告らは艦これキャラを性玩具として扱うことを許容していない」と捉えることができ、他のR-18艦これ同人誌は問題にならないのか?と言った疑問が生まれてくる。後者の主張については、往年の公式によるキャラの扱い(那珂ちゃん解体セット、赤城の大食いキャラ&の行き遅れネタの公式化など)を見れば嘘と言いたいところだが、これらの行いが「愛着も敬意も抱いていない」と断定するに足るのかは不明のためここでは一旦保留とする。

裁判所の判断
本件同人誌には、前提事実(3)[3]のとおりの記載がある。また、甲15及び弁論の全趣旨によれば、原告会社は、本件ゲームに係る同人誌やイラスト、漫画、小説等の一般慣例的な「同人活動」について、公序良俗に反するもの、ゲームシステムのあるもの、ゲーム内の音源又は画像を使用したもの、関係者及び関係会社に迷惑を与えるもの以外は基本的に許容する旨の二次創作ガイドライン(本件ガイドライン)をツイッター上で公表していることが認められる。他方、本件同人誌には、原告らが本件同人誌の制作等に関与したことないしその内容を許容していることを示す明示的な事実の摘示はない。もっとも、本件クレジット表記には、「SPECIAL THANKS」として原告らの名称が表示されると共に、「原作」欄に本件ゲームの名称が表示されている。

(検討)
本件同人誌は、本件ゲームの愛好者向け同人誌即売会である本件即売会において販売された同人誌である。その内容も、本件ゲームそれ自体とは異なり、本件キャラクターを性玩具として扱うなどの本件キャラクター描写のような卑猥なイラストやストーリーを含む漫画を主な内容とし、全体としては、本件ゲームないし本件キャラクターを揶揄する趣旨も含むものと理解される。しかも、本件同人誌は、随所に原告A個人を揶揄する趣旨のものと理解されるイラストや文言による描写をも含む。本件クレジット表記に「TwiFemis」とし 3つのツイッターアカウントが挙げられているところ、この語がツイッター上でフェミニズムに関する言動を展開する人々又はその現象を指すインターネットスラングであることに鑑みても、本件同人誌は、本件クレジット表記に表記された者を揶揄する趣旨を強く含むものであることがうかがわれる。

このような本件同人誌の性質及び内容に鑑みると、一般的な読者の注意と読み方を基準とした場合に、本件ゲームの制作者である原告らが本件同人誌の制作に協力したと理解されるとは考え難く、また、本件ゲームの設定が本件同人誌の内容に沿うものと理解されるともいい難い。

しかし、他方で、本件ガイドラインの内容がやや抽象的なものであり、本件ゲームに係る二次創作作品が本件ガイドラインにより許容される範囲が必ずしも明確でないことを併せ考慮すると、上記基準によっても、本件同人誌の頒布という行為それ自体をもって、このような内容の二次創作作品が本件ガイドラインにより許容される範囲内に含まれ、許容されるものであるという判断を原告会社が行ったという事実を摘示するものと理解されることは合理的にあり得る。しかも、「SPECIAL THANKS」として本件クレジット表記に原告らの名称が明記され、原作として本件ゲームの名称が記されていることは、このような理解を強めるものといえる。

この場合、原告会社は、自ら管理するコンテンツである本件キャラクターに対する愛着や敬意の乏しい企業として、その社会的評価が低下すると見るのが相当である。また、原告Aについても、本件ゲームのプロデューサーとして本件ゲームのユーザーの間では著名な人物であることなどに鑑みると、原告会社とは別に個人としての社会的評価が同様に低下すると見られる。このことは、本件店舗描写に関しても同様である。

(小括)
以上の事情に鑑みると、一般的な読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件キャラクターに対する卑猥な描写をその内容とすると共に、クレジット表記に「SPECIAL THANKS」と付して原告らの名称等を記載した本件同人誌を頒布する行為及び本件店舗描写は、原告らそれぞれの名誉を毀損するものといえる。これに反する被告の主張は採用できない。

(全文pdf 16~18ページ目)

裁判所の判断は上記の通りである。まず裁判所は前提事実として以下の点を挙げている。

  • 原告会社は二次創作ガイドラインをTwitterで公表している。
  • 原告らが被告の同人誌の制作に関与している、あるいは内容を許容している明示的事実はない。
  • 他方で同人誌のクレジット表記には「SPECIAL THANKS」として原告らの名称が表示されており、また「原作」欄には艦これの名称が表示されている。

その上で裁判所は名誉毀損の成否に関する検討を行い、初めに以下のような判断をした。

  • 被告の同人誌は艦これキャラを性玩具として扱うような描写(卑猥なイラストやストーリー)があり、ゲームやキャラクターを揶揄する趣旨を含んでいる。
  • 加えて同人誌は原告A個人を揶揄するような描写(イラストや文言)をも含んでいる。更にはクレジット表記の「TwiFemis」を揶揄する趣旨を強く含んでいる。
  • 以上のことから被告の同人誌の性質と内容を考えると、一般的な読者の注意と読み方を基準とした場合、原告らが同人誌の制作協力した&同人誌がゲームの内容に沿っていると理解されるとは考えにくい。

つまり「同人誌の内容があまりにもアレであるため、一般読者が見てもそれをそのまま真に受けることはない」と判断したということである。これにより被告側の「一般読者が見ても原告らの名誉毀損に当たる解釈は成立しない」「クレジット表記はユーモアであり、原告らが同人誌の制作に関与したと解釈されることはない」という主張が通るかと思われたが、裁判所は別口から以下のような判断も行っている。

  • ガイドラインがやや抽象的であることを考えると、被告の同人誌を頒布する行為自体がガイドラインに許容される(=原告会社が許容している)と理解される可能性がある。
  • 加えて「SPECIAL THANKS」として原告らの名称が明記され、原作として艦これが記されていることは上記の理解を強める可能性がある。
  • もし上記の理解がされた場合、原告会社は艦これやそのキャラクターに対する愛着や敬意の乏しい企業として社会的評価が低下する。
  • また原告Aについても、ゲームユーザー間では著名な人物であることを考えると個人としての社会的評価が低下する。これはカレー機関についても同様である。

つまり「ガイドラインがそもそも曖昧なため、被告の同人誌を頒布すること自体が原告らの名誉毀損に繋がる可能性がある」ということである。雑なガイドラインが状況を覆す驚愕の展開。
これにより裁判所は原告側の「同人誌の頒布は名誉毀損に当たる」という主張を認め、被告側の主張を退けることになった。


(以下作成中)

脚注・出典

  1. 訴訟が起きた当初は被告側の勝訴の可能性も指摘されていたが、情報が集まるに連れて次第に敗訴の方に見方が傾いていった経緯がある。
  2. 本ページの「同人誌の頒布行為」を参照。
  3. 本ページの「同人誌の頒布行為」を参照。