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Dr.natural (トーク | 投稿記録) |
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=== 本件ツイートによる原告らの名誉毀損の成否 === | === 本件ツイートによる原告らの名誉毀損の成否 === | ||
被告がTwitterで投稿したツイートが、原告らの名誉を毀損しうるのかについてが争点である。 | |||
'''原告らの主張''' | |||
【本件キャラクターには人権がないとの投稿】 | |||
被告は、別紙4投稿目録(1)のとおり、「艦娘は兵器なので、人権がない」との言及を繰り返している。また、これらの投稿には、その投稿内容に沿うものとして被告がイラスト画像を添付したものがあるところ、これらのイラストは、いずれも本件ゲームの二次創作であり、本件キャラクターを改変した描写である。 | |||
これらの投稿は、一般の読者の注意と読み方からすれば、本件キャラクターが、身体拘束を加えられ、解体されて廃棄処分にされる等の扱いを受けても問題のないキャラクターであるとの印象を与えるものである。本件キャラクターは、本件ゲームの設定上「人」として描写されており、上記のような扱いを受け得る存在ではないにもかかわらず、被告の投稿は断定的であり、本件キャラクターが当初からそのようなキャラクター像として設定されていたかのような表現を用いている。このため、これらの投稿は、被告の描写する本件キャラクター像こそが原告会社によって設定されたものであり、原告会社が当該投稿を許容しているとの事実を摘示するものと理解される。 | |||
このような事実は、原告会社が、自ら展開する本件キャラクターを単なるコンテンツ上の道具という程度にしか扱わず、敬意も愛着も有していないといった印象を与えるものであり、原告会社の社会的評価を低下させる。 | |||
したがって、被告の上記行為は、原告会社の名誉を毀損する。 | |||
【本件キャラクターに関する卑猥な表現】 | |||
被告は、別紙4投稿目録(2)のとおり、本件キャラクターを凌辱の対象として表現した。これらの投稿は、一般の読者の注意と読み方からすれば、本件キャラクターを男性の性的欲求のはけ口として扱うものである。本件キャラクターは、本件ゲームの設定上、戦艦を擬「人」化したものであり、被告が描写したような取扱いを受けるような存在ではないにもかかわらず、被告の投稿は断定的であり、本件キャラクターが当初からそのようなキャラクター像として設定されていたかのような表現を用いている。このため、これらの投稿は、被告の描写する本件キャラクター像こそが原告会社によって設定されたものであり、原告会社が当該投稿を許容しているとの事実を摘示するものと理解される。 | |||
このような事実は、原告会社が、自ら展開する本件キャラクターを単なるコンテンツ上の道具という程度にしか扱わず、敬意も愛着も有していないといった印象を与えるものであり、原告会社の社会的評価を低下させる。 | |||
したがって、被告の上記行為は、原告会社の名誉を毀損する。 | |||
【原告らが被差別部落への差別を助長しているかのような投稿】 | |||
被告は、別紙4投稿目録(3)のとおり、「四号」と呼ばれる本件ゲームの「第四号海防艦」というキャラクターのイラストと共に「よつ」と記載している。上記キャラクターは自称「よつ」と名乗っているものの、これは単に「四号」という名称に由来するものである。しかし、被告の上記投稿では、「よつ」との表記があたかも被差別部落に関する差別用語として使われているように解釈され、ひいては、本件ゲームが被差別部落に関与しているかのように理解される。 | |||
また、被告のツイートには本件ゲームと台湾問題とを関連付けるかのようなものもあるが、原告らは本件ゲームをこのような関連付けにより展開していない。 | |||
これらの投稿は、原告らが本件ゲームを被差別部落問題に関連付ける意図をもって制作・展開すると共に、台湾問題と関連付けている等の事実を摘示することにより、原告らの社会的評価を低下させるものである。 | |||
したがって、被告の上記行為は、原告らの名誉を毀損する。 | |||
【本件店舗に関する誹謗中傷】 | |||
被告は、別紙4投稿目録(4)のとおり、本件店舗について投稿し、本件店舗を「キャバカレー」、「派遣型風俗キャバカ〇ー機関」と、あたかもキャバクラまがいの風俗店であるかのように揶揄した。このような記載は、本件店舗を訪れたことのない者に対し、本件店舗につきキャバクラまがいの店舗であるとの誤解を与える。 | |||
また、その投稿には、本件店舗の運営が風営法違反に当たり、逮捕者(容疑者が原告Aであることを推認させる記載を含む。)が出ているとの記載も存在する。このような事実は、原告らが法令に違反した店舗を経営しているという印象を与えるものであり、原告らの社会的評価を低下させる。 | |||
したがって、被告の上記行為は、原告らの名誉を毀損する。 | |||
'''被告の主張''' | |||
否認ないし争う。一般読者の通常の読み方からして、被告が原告ら主張に係る事実を摘示したとはいえず、また、これにより原告らの社会的評価が低下したともいえない。 | |||
原告側は被告の投稿について大きく4点に分けて名誉毀損の根拠を主張している。順に見ていこう。<br> | |||
まず初めに「本件キャラクターには人権がないとの投稿」について、以下のように主張している。 | |||
*被告の「艦娘は兵器なので、人権がない」という発言ないしそれに付属するイラストのツイートは、その描写から一般読者に「艦娘は拘束・解体・廃棄処分等の扱いを受けても問題ない」という印象を与えるものである。 | |||
*ゲームの設定上では艦娘は「人」として描写されており、上記のような扱いを受け得る存在ではない。しかし被告のツイートにおける艦娘の描写は断定的であり、艦娘は当初からそのような扱いを受け得る存在として設定されていたかのような表現を用いている。 | |||
*被告のツイートは、被告のツイートの中で描写されている艦娘の扱いが原告会社の設定したものであり、また原告会社が被告のツイートを許容していると判断される。 | |||
*よって被告のツイートは「原告会社は艦娘を単なるコンテンツ上の道具としか思っておらず、敬意も愛着も抱いていない」といった印象を与えるものであり、原告会社の名誉を毀損している。 | |||
次に「本件キャラクターに関する卑猥な表現」について、以下のように主張している。 | |||
*被告はツイートの中で艦娘を凌辱対象として表現しており、一般読者の視点では艦娘を男性の性欲のはけ口として扱っている。 | |||
*ゲームの設定上では艦娘は戦艦を擬「人」化したものであり、上記のような扱いを受け得る存在ではない。しかし被告のツイートにおける艦娘の描写は断定的であり、艦娘は当初からそのような扱いを受け得る存在として設定されていたかのような表現を用いている。 | |||
*被告のツイートは、被告のツイートの中で描写されている艦娘の扱いが原告会社の設定したものであり、また原告会社が被告のツイートを許容していると判断される。 | |||
*よって被告のツイートは「原告会社は艦娘を単なるコンテンツ上の道具としか思っておらず、敬意も愛着も抱いていない」といった印象を与えるものであり、原告会社の名誉を毀損している。 | |||
要約すると'''「被告の艦娘に関する侮辱的&凌辱的なツイートは、原告会社も被告と同様に艦娘を扱っているという印象を与えるので名誉毀損に当たる」'''ということである。被告のツイートが実際にどのようなものであったのかについては[https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/953/091953_option1.pdf 添付資料]を参考にして欲しいが、被告はツイートの中で原告会社の名前を用いておらず、艦娘の設定が被告が描写しているものと同様であると主張しているわけでもない。したがって、この2点については原告側の主張が通るとは考えにくい。 | |||
次に「原告らが被差別部落への差別を助長しているかのような投稿」について、以下のように主張している。 | |||
*艦娘である「第四号海防艦」が名乗っている自称「よつ」は、単に「四号」に由来するものである。 | |||
*しかし被告はツイートの中で、「よつ」が被差別部落に関する差別用語であり、ひいては艦これが被差別部落に関与しているかのような表現を用いている。 | |||
*また被告はツイートの中で、艦これが台湾問題と関連付いているかのような表現を用いているが、原告らは艦これを台湾問題に関連付けて展開していない。 | |||
*よって被告のツイートは「原告らは艦これと被差別部落問題&台湾問題を、意図を持って関連付けて制作・展開している」といった印象を与えるものであり、原告らの名誉を毀損している。 | |||
「第四号海防艦」が自称している「よつ」に関する問題である。原告側の主張を要約すると'''「被告のツイートは、原告らが意図的に被部落差別問題や台湾問題を艦これのネタとして扱っているという印象を与えるので名誉毀損に当たる」'''ということである。ここで注意するべき点は、原告側の名誉毀損の根拠は「原告らが'''意図的に'''行っているという印象を与えるから」としていることだろう。つまり例えば「原告らの不注意で差別用語が見逃された」と揶揄した場合において、それが名誉毀損に当たるかどうかについては対象外ということである<ref>今回の裁判では争点となっていないだけで、別途で裁判を起こされる可能性はあることに注意。</ref>。 | |||
最後に「本件店舗に関する誹謗中傷」について、以下のように主張している。 | |||
*被告はツイートの中で、カレー機関を「キャバカレー」「派遣型風俗キャバカ〇ー機関」とあたかもキャバクラ紛いの風俗店であるかのように揶揄した。これはカレー機関を訪れたことがない者に対し、カレー機関がキャバクラ紛いの店舗であるとの誤解を与えるものである。 | |||
*また被告はツイートの中で、「カレー機関が風営法に違反し逮捕者を出している」記載し、更にその容疑者が原告Aであると推測できるような記載を行っている。 | |||
*よって被告のツイートは「原告らが法令に違反した店舗を経営している」といった印象を与えるものであり、原告らの名誉を毀損している。 | |||
ツイッター上でカレー機関を「キャバカレー」と揶揄することが、原告らの名誉を毀損しているのかが争点である。しかしここでは「キャバカレー」と揶揄することより、'''「原告Aが風営法違反の疑いで逮捕された」'''というデマのほうが重要だろう。SNSによるデマの拡散は場合によっては逮捕にも結びつくため、被告側にとってはかなり不利な争点である。 | |||
'''裁判所の判断''' | |||
【本件店舗に関する投稿について】 | |||
被告は、別紙4投稿目録(4)のとおり、原告会社の運営する本件店舗を「キャバカレー」、「派遣型風俗キャバカ〇ー機関」などと呼んだ上、「キャバカレー」が違法風俗店として摘発され、セクキャバ「キャバカレー」経営者である「(省略)」が風営法違反の疑いで逮捕されたという内容の画像を、実在するニュース映像風の画像のように表現して投稿した(前提事実(2)ア)。 | |||
一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、被告の上記各投稿は、原告会社の経営する本件店舗が「違法風俗店」として捜査機関により摘発され、原告Aと同定される者が風営法違反の疑いで逮捕されたという事実を摘示したものと理解される。これにより、上記各投稿は、これを閲覧した者において、原告らが違法な風俗店を経営し、その代表者である原告Aが逮捕されたという印象を与えるものであって、原告らの社会的評価をいずれも低下させるものといえる。 | |||
したがって、被告の上記各投稿は、原告らそれぞれの名誉を毀損するものであり、原告らに対する不法行為に当たると認められる。これに反する被告の主張は採用できない。 | |||
【原告らのその余の主張について】 | |||
《本件キャラクターの人権等に言及した投稿について》 | |||
原告会社は、被告が、別紙4投稿目録(1)の各投稿により、本件キャラクターに人権がなく、身体拘束されて解体されても問題がないというキャラクター像を原告会社が設定し、被告の投稿を許容しているという事実を摘示し、原告会社の社会的評価を低下させた旨を主張する。 | |||
しかし、投稿先であるツイッターという投稿サービスの性質等をも踏まえて考えると、一般の閲覧者の普通の注意と読み方によれば、被告の上記各投稿は、いずれも本件キャラクター等に関する卑猥な妄想や冷笑的な捉え方といった被告個人の考えやこれを具現化したイラスト画像を投稿したと理解されるものであり、本件キャラクターにつき原告会社がこのような考えに沿うキャラクター像を当初から設定していたとか、当該投稿を許容しているといった事実を摘示するものとは必ずしも理解し得ない。 | |||
したがって、この点に関する原告会社の主張は採用できない。 | |||
《本件キャラクターに関する卑猥な投稿について》 | |||
原告会社は、被告が、別紙4投稿目録(2)の各投稿により、原告会社が本件キャラクターを凌辱の対象、男性の性的欲求のはけ口として扱うというキャラクター像として設定し、被告の投稿を許容しているという事実を摘示し、原告会社の社会的評価を低下させた旨を主張する。 | |||
しかし、上記アと同様に、一般の閲覧者の普通の注意と読み方によれば、被告の上記各投稿は、本件キャラクターを素材とする被告作成の卑猥なイラスト画像をそのタイトル等と共に紹介したものと理解されるにとどまり、本件キャラクターにつき原告会社がこのような画像等に沿う内容のキャラクター像を当初から設定していたとか、当該投稿を許容しているといった事実を摘示するものとは必ずしも理解し得ない。 | |||
したがって、この点に関する原告会社の主張は採用できない。 | |||
《被差別部落等に言及した投稿について》 | |||
原告らは、被告が、別紙4投稿目録(3)の各投稿により、原告らが、本件ゲームを被差別部落問題に関連付ける意図をもって制作・展開すると共に、台湾問題と関連付けている等の事実を摘示して、原告らの社会的評価を低下させた旨を主張する。 | |||
しかし、一般の閲覧者の普通の注意と読み方によれば、被告の上記各投稿は、本件同人誌その他被告又は被告の所属するサークルにおいて作成する同人誌において、被差別部落に対する差別用語とも理解し得る表現が使用されていることを奇貨として、同人誌等の認知度向上や原告Aを揶揄することを図ったものと理解されるのであって、原告会社が本件ゲームを被差別部落問題に関連付ける意図をもって制作・展開し、又は台湾問題と関連付けているといった事実を摘示するものとは理解し得ない。 | |||
したがって、この点に関する原告らの主張は採用できない。 | |||
裁判所は「カレー機関に関係する投稿」とその他の2点に分けて判断した。<br> | |||
まず初めに「カレー機関に関係する投稿」について、以下のように論じている。 | |||
*被告は原告会社が運営するカレー機関を「キャバカレー」「派遣型風俗キャバカ〇ー機関」などと呼んだ上、「キャバカレー」が違法風俗店として摘発され、その経営者である原告Aと推測される人物が風営法違反の疑いで逮捕されたという内容の画像をニュース風に表現してツイートした。 | |||
*一般閲覧者から見れば、被告のツイートはカレー機関が「違法風俗店」として摘発され、経営者である原告Aと同定される人物が風営法違反の疑いで逮捕されたと理解できるものである。 | |||
*よって被告のツイートは閲覧者に対し「原告らが違法な風俗店を経営し、その代表者である原告Aが逮捕された」という印象を与えるものであり、原告らの名誉を毀損していると認められる。 | |||
裁判所は被告のツイートが原告らの名誉を毀損していると認め、被告側の主張を退けた。<br> | |||
ここで注意するべきは、裁判所が名誉毀損と認めたのは'''「カレー機関をキャバカレーと呼ぶツイート」と「キャバカレーが摘発され原告Aが逮捕されたとするツイート」を同時に行った場合'''におけるものであるという点である。前者のみあるいは後者のみのツイートであった場合において、名誉毀損に当たるのかについては裁判所は判断していない。無論これは「名誉毀損に当たらない」というわけではなく、特に後者については明らかなデマであるため、前者よりも名誉毀損と判断される可能性が高いことを付記しておく。 | |||
次に裁判所はその他のツイートについて以下のように論じている。 | |||
*被告の「艦娘に人権はない」とする旨のツイートについて、Twitterの性質から考えると一般閲覧者には「艦娘に対する被告個人の卑猥な妄想、あるいは冷笑的な捉え方を具現化したイラスト画像をツイートした」と理解されるものである。よって原告会社が被告の考えに沿うようなキャラクター像を当初から設定している、あるいは被告のツイートを許容しているとは必ずしも理解し得ない。 | |||
*被告の艦娘に関する卑猥なツイートについて、一般閲覧者には「被告が作成した艦娘を基とする卑猥なイラスト画像をタイトル等と共に紹介した」と理解されるものである。よって原告会社が画像等に沿うようなキャラクター像を当初から設定している、あるいは被告のツイートを許容しているとは必ずしも理解し得ない。 | |||
*被告の被部落差別等に言及したツイートについて、一般閲覧者には「被告ないし被告が所属するサークルが作成する同人誌が、ゲーム内で被差別部落に対する差別用語と理解し得る単語が使用されていることを利用し、同人誌の認知向上や原告Aの揶揄を図っている」とりかいされるものである。よって原告会社が艦これと被差別部落問題や台湾問題と関連付けているとは理解し得ない。 | |||
*上記のことから、これらの被告のツイートに対する原告らの主張は採用できない。 | |||
カレー機関に関係するもの以外の被告のツイートについては、裁判所は原告側の主張を認めず退けた。<br> | |||
要約すると'''「被告のツイートは被告個人の範疇に収まるものであって、原告らの名誉毀損になるほどの影響力はない」'''ということである。「必ずしも理解し得ない」「理解し得ない」という2種類の文言を用いているのは「一般閲覧者の中からどれだけ名誉毀損に当たるような解釈をする者が現れるのか」を示しているのだろう。少なくとも裁判所は「よつ」の問題に関して、「被告のツイート程度では「原告会社が艦これと被部落差別問題&台湾問題を結びつけてる」と解釈する人なんて現れない」と言いたいようである。 | |||
以上のことから、この争点に関しては原告側の主張を一部認める形で決着となった。 | |||
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=== 本件ツイートによる原告Aの肖像権及び名誉感情の侵害の成否 === | === 本件ツイートによる原告Aの肖像権及び名誉感情の侵害の成否 === | ||
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