「フェイスマスク事件裁判・判決編」の版間の差分

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=== 本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aのパブリシティ権侵害の成否 ===
=== 本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aのパブリシティ権侵害の成否 ===
被告がフェイスマスクをして同人誌を配布した行為が、原告Aのパブリシティ権侵害を侵害したのかについてが争点である。
被告がフェイスマスクをして同人誌を配布した行為が、原告Aのパブリシティ権を侵害したのかについてが争点である。


  '''原告Aの主張'''
  '''原告Aの主張'''
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  したがって、被告の上記行為は、原告Aのパブリシティ権を侵害する。
  したがって、被告の上記行為は、原告Aのパブリシティ権を侵害する。
(全文pdf 8~9ページ目)


  '''被告の主張'''
  '''被告の主張'''
  否認ないし争う。
  否認ないし争う。
  被告は、本件マスク自体は販売していない。また、原告Aの肖像には顧客吸引力が認められるほどの周知性はない。このため、本件マスクを被った人物は人目を引いたかもしれないが、これを広告として利用したとはいえない。
  被告は、本件マスク自体は販売していない。また、原告Aの肖像には顧客吸引力が認められるほどの周知性はない。このため、本件マスクを被った人物は人目を引いたかもしれないが、これを広告として利用したとはいえない。
  (全文pdf 9ページ目)


被告がフェイスマスクをして同人誌を配布した行為がパブリシティ権侵害に値すると主張する原告A側の根拠は以下の通り。
被告がフェイスマスクをして同人誌を配布した行為がパブリシティ権侵害に値すると主張する原告A側の根拠は以下の通り。
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*被告はフェイスマスクを販売しておらず、原告Aの肖像にも顧客吸引力が認められるほどの周知性はない。フェイスマスクを被った被告は人目は引いたかもしれないが、広告として利用したとは言い難い。よってパブリシティ権の侵害には当たらない。
*被告はフェイスマスクを販売しておらず、原告Aの肖像にも顧客吸引力が認められるほどの周知性はない。フェイスマスクを被った被告は人目は引いたかもしれないが、広告として利用したとは言い難い。よってパブリシティ権の侵害には当たらない。


パブリシティ権とは、端的に言うと'''「自身の肖像に顧客吸引力がある場合、それを独占して使用できる権利」'''のことである。この権利を持つ人物の肖像を「無断で使用」かつ「顧客吸引力の利用を目的として使用」するとパブリシティ権の侵害として処罰されることになる。パブリシティ権の有無は本人の周知性(世間一般に周知されているか)が重要であるため、原告Aの名が知れ渡っているかどうかが争点となる。また原告Aのパブリシティ権が認められたとして、次は被告の行為がパブリシティ権の侵害に当たるのかが争点となる。
'''裁判所の判断'''
原告Aは、被告が本件マスクを着用しながら本件同人誌を頒布した行為及び本件同人誌に本件マスクの写真を掲載した行為につき、原告Aのパブリシティ権侵害を主張する。
肖像等を無断で使用する行為については、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となる(最高裁判所平成24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁参照)。
本件の場合、そもそも、原告Aが本件ゲームの愛好者等の間で著名であるとしても、そのことから直ちに同原告の肖像等に顧客吸引力があることにはならないところ、この点について、同原告は何ら具体的な主張立証をしない。
この点を措くとしても、本件マスクは、原告Aの写真を顔面に着用できるように山型に湾曲させただけの粗雑な作りのものにすぎない。そのため、本件マスクやこれを撮影した写真は、同原告の肖像の写真(甲10)とは相応に異なる印象を与えるものであり、同原告の肖像それ自体を独立して鑑賞の対象とする目的で作成されたものとはいい難い。また、本件同人誌における本件マスクの写真は全10頁程度のうちの8頁目にのみ掲載されている(甲5)。しかも、同頁の本件マスクの写真は、「本邦初公開!これが【神】のリアルマスクだ―――ッ!」との宣伝文句と共に、「古来より人は儀式や祭礼に際し、自らに神格を宿すために仮面をまとったという・だとすれば神である(省略)のマスクが作られるのは人間心理の必然的帰結であろう。」との説明文の記載と共に掲載されており、これらは、本件同人誌の本編である漫画の内容と直接的には無関係に、主に原告Aを揶揄する文脈で掲載されているものと理解される。これを踏まえると、本件即売会での本件同人誌の頒布にあたり被告が本件マスクを着用していた点についても、同様に原告Aを揶揄する趣旨で行われたものと理解するのが相当である。
また、本件3コマ漫画における原告Aの氏名は、その素材となった別作品の宣伝用画像(甲148)の構図に擬して作成した最終コマに表示されたものであり、著作者として表示されたものとは理解し得ないと共に、当該コマの上部に小さく配置されているに過ぎないこともあって、原告Aの氏名の顧客吸引力の利用を目的としたものとはいい難い。
そうすると、本件マスクの写真の掲載及び本件即売会での本件同人誌頒布時における着用並びに本件3コマ漫画の氏名の記載は、上記①~③のいずれにも当たらず、その他専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に当たるとは認めるに足りない。
したがって、これらの行為は原告Aのパブリシティ権を侵害する違法なものとはいえない。この点に関する原告Aの主張は採用できない。
(全文pdf 18~19ページ目)
裁判所の判断は上記の通りである。裁判所はまず初めにパブリシティ権侵害の判例を挙げた上で次のように判断している。
*原告Aが艦これの愛好者の間で著名であったとしても、それが原告Aの肖像等に顧客誘引力があることにはならない。また、原告Aは自身の肖像にパブリシティ権があることを示す具体的な主張をしていない。
*フェイスマスクは原告Aの写真を加工した粗雑な作り物である。そのためフェイスマスクは実際の原告Aの肖像とは乖離しており、したがって原告Aの肖像を独立して鑑賞する目的として作られたとは言い難い。
*フェイスマスクの写真は同人誌の1ページに掲載されているのみである。またフェイスマスクの写真は宣伝文句&説明文と共に掲載されているが、これは同人誌の本編とは無関係に原告Aを揶揄するためだけに掲載されていると理解される。これについては、被告がフェイスマスクを着用して同人誌を頒布した行為にも同じことが言える。したがって、商品の差別化を図る目的で原告Aの肖像を利用したとは言い難い。
*同人誌内の3コマ漫画に記載されている原告Aの氏名は最終コマに表示されており、これだけでは著作者として表示されたものとは理解されない。またコマの上部に小さく表示されているにすぎないため、原告Aの氏名を顧客吸引力を目的として使用したとは言い難い。
*上記のことから、被告の行為だけでは原告Aの肖像ないし氏名を顧客吸引力を目的として使用したと認めるには足りない。
裁判所は'''「艦これ界隈で有名であるからと言ってパブリシティ権が認められるわけではない」'''と前置きしつつ、大きく3点に分けて被告のパブリシティ権侵害を否定できる理由を述べている。ただし裁判所は「認めるに足りない」と表現しているため、被告がこれ以上の行為(フェイスマスクを精巧に作るなど)を行っていた場合は判断が覆る可能性もあったと思われる。<br>
以上のことから、裁判所は原告Aの主張を退けることになった。


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